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【キミノカゲ】1章 00

  1 空間

 

 目を開くと目の前には暗い色をした曇り空が広がっており信頼はゆっくりと何故か倒れていた身体を起こすと周りを見渡した。

周りは森なのか木々に囲まれているが自分のいる場所はコンクリートの地面で少し先には大きな門とその中にあるであろう屋敷のようなものが見えた。

先ほどの喫茶店はどこに行ったのか。

そもそも自分はどこに来てしまったのだろうと疑問に思いながら信頼は立ちあがるとその屋敷の方へ歩き始める。

とりあえずあの屋敷の人に道を尋ねよう。

そんな簡単な思考で信頼は屋敷へと歩みを進めるとふと見覚えのある白い服を着た少女が視界に入る。

電車でトラブルに会っていた女の子だ。

この屋敷の子なのだろうかと信頼はぼんやり考えていると女の子もこちらに気がついたらしくステップを踏むように軽やかに走りながら信頼の前までやって来た。

 

「あ、あの、あなた、が、カゲ、さん?」

口を小さく丸く開けながら互いが首をかしげる。

カゲとはあのメールの送信者の名前の事だろうか。

ならば何故今自分がその名前なのか尋ねられたのか疑問に思うと女の子は慌てたような表情で柔らかく両手を横に振った。

「あ、ちが、う、のかな?わたし、と同じ、招待者、さん?」

招待者と聞いてあのメールが招待状と書かれていたことを思い出すと信頼は小さく頷いた。

女の子は明るく笑うと信頼の手をとり信頼はいきなりの事に驚き少し肩を震わせた。

「みなさん、お庭に、いる、の…一緒に、行きま、しょう?」

小さく首を横に傾ける女の子の言葉に信頼は再び頷くと女の子は信頼の手をひき屋敷の方へと歩みを始めた。

それについていきながら信頼は他にも人がいるのだろうかと先ほどの少女の言葉を考えているとあっという間に門の中に入り

目の前には薄いクリーム色の外壁で出来た大きな洋館が目の前に現れた。

少女はチョコレート色の少し大きい扉を両手で開けると扉を持ったまま信頼に入るようにと道を譲った。

信頼は電車でしたときと同じように小さく会釈をすると屋敷の中へと足を踏み入れた。

 

女の子も中に入ると扉が閉まる低い音が屋敷のホールに響いた。

ホールには真ん中に2階へと続くであろう大きな階段とその階段と廊下を繋ぐ赤い絨毯が一番最初に視界に入った。

他にも1階の別の場所へとつづくであろう扉が2つと通路が2つ横に続いていた。

その通路の右側の近くにあるガラス製の扉の方へ女の子が歩くと信頼も女の子についていきガラスの扉の向こうへと足を踏み入れた。

 

ガラスの扉の先には美しい花壇と木々そして男性が1人と女性が1人。

もう1人小学生くらいの女の子が各々庭を見て回っていた。

信頼は男性と女性が電車の中にいた人と同一であることに気がつきながらもあまり関わらない様にとすぐに端の方へと移動しようとすると

白い服の女の子に腕を掴まれ女の子は他の人に声をかけた。

「かなみ、さん!姫、ちゃん!敦、さん!もう1人、増え、ま、した!」

嬉しそうに笑いながら女の子は言うと声をかけられた3人は信頼と女の子の方を見ると幼い女の子以外の2人は信頼と女の子の周りに集まってくる。

「あの、ね、わたしは、水無月 サツキ(ミナツキ サツキ)…あなた、は?」

信頼に微笑む女の子に信頼は少し緊張のようなものを感じると急いで慌ててスマホをポケットから取り出すと素早く文字を打ち女の子に見せると女の子はそれを読み上げた。

 

「えっと…〔本能寺 信頼、です。ホンノウデラシンタ、と、読みます…持病で、声が、出ません…〕?

シンタくん…信頼くんって、言うん、だね、病気、大変だね、わたし、サポート、出来る、時は、するから、

肩、叩いて、ね?」

女の子、水無月 サツキと名乗った少女は優しく信頼に微笑むと信頼はありがたいなと思いながら小さく頷いた。

オレンジ色のカーディガンを着た女の人が小さく笑うと口を開いた。

「サツキちゃん、本当に優しいいいこね。きっと将来は幼稚園の先生かな?

本能寺さん、私は金川 かなみ(カネガワ カナミ)って言います。あの子は朝野姫(アサノ ヒメ)ちゃん

小学4年生なんですって」

移動してこなかった女の子の事も簡単に紹介しながらかなみは男性を見ると男性は「はい、はい」と口を開いた。

「オレは窓際 敦(マドギワ アツシ)よろしくね、信頼くん」

笑いながらも信頼を警戒しているのか一歩引いた場所にいる窓際 敦と名乗る男の頭を信頼は少し凝視する。

水色の髪も現実味がないが彼の様に若い年齢で銀色の髪はとても珍しく現実味を感じられない異質な人の様に信頼は感じながら全員に対して会釈をした。

今いるメンバーの姫のみ少し奥に座ってる

「本能寺さん、ここに来るまでに他に人はこなかった?」

かなみの突然の質問に信頼は驚きながらも少し考える。

例の喫茶店の周りには誰もいなかったことを思い出し信頼は首を横に振った。

 

「そっか、じゃあまだなのね。ありがとうね」

優しく微笑むかなみに信頼は先ほどサツキに感じた緊張のようなものを感じながらも小さく頷いた。

その時。

ガラスの扉が開かれ奥から黒髪の赤い腕時計をした少年と外国人の様な金髪だがしっかりと日本人の顔をした少女が立っており見渡した後に少女は口を開いた。

「えーー…と、ぴょんりんちゃんは…どの子?」

金髪の少女の言葉にかなみが手を上げながら笑う。

「私よ!じゃあ貴女がシージョちゃん?」

かなみはシージョと呼んだ金髪の少女に駆け寄ると嬉しそうに笑い合う。

「よかったぁ!会えないかと思った!ぴょんりんちゃん!初めまして!ワタシ、シージョこと

派李野 麻李野〔パリノ マリヤ〕!マリーって呼んで!」

「私は金川かなみよ!よろしくね。後ろの君がキングんくん?」

 

かなみが赤い腕時計の少年に声をかけると少年は軽く会釈すると口を開く。

「はい、本名は後宮 隼人〔ウシロミヤ ハヤト〕と言います。ぴょんりんさん…えっと、かなみさん

初めましてお会いできて嬉しいです」

隼人と名乗った少年はかなみの前に手を出すとかなみはそれを取り握手をする。

「私も会えて嬉しいわ!キングんくん!…えーっと、なんて呼んだらいいかな?」

「はやとん!会った時にワタシが決めたんだよー!」

「マリーさん…もう、勝手に決めてる」

「さん付け禁止だよー!はやとん!」

「ふふふ、じゃあ私もはやとんって呼んじゃお!よろしくね、はやとん」

「じゃあ僕はかなみさんって普通に呼ぼっと」

「えー!はやとんそれじゃつまんないよ!かなぴょんにしよ!かなみとぴょんりんでかなぴょん!」

「ええ!かわいい!いいの?私そう呼んでもらいたいなあ」

「えっと…じゃあ、かなさんで」

「ええーーーーー!!!」

「ふふふ、それでもいいよ、よろしくね!マリー、はやとん!」

 

入る隙間もない程盛り上がる会話を信頼たちはぼんやりと眺めているとマリヤが信頼たちの方を見ると

近づいてくる。

信頼はこの人達もあのメールが届いた人たちなのだろうかと考えているとマリヤが口を開く。

「みんなも俺島のプレイヤー?」

「おれしま?」

サツキが首を横に傾け目を丸くするとマリヤは説明する。

「え、違うのかな?俺島は俺の島のらんどの略で今凄い大人気の街作りゲームだよ!

スマホでできる…最近CMもやってるの!ほら、観たことない?おれ~のし~まをつ~くろ!って奴!」

 

サツキは信頼と敦の方を見る。

恐らく知ってる?と無言だが聞いているのかと信頼は感じた。

信頼は俺島という名前を聞いた事くらいはあってもテレビが無いためCMをやっていたとしても観る機会がない。

だから知らないと言った方がいいだろうと判断し信頼は首を横に振った後敦を見ると敦は「ごめんね、わからない」と答えた。

麻李野は「そっかぁ…」と少し残念そうな表情をするもすぐ明るい表情に戻ると続けた。

「あ、じゃあアレ?みんなあのメールで来たの?会いたい人に会えるって奴!」

 

そこ言葉に一同はマリヤに視線を向ける。

あのメールとは招待状の事だろうと信頼が考えているとサツキが答えた。

「は、い…会いたい人…わたし、ひとり、いるの…」

麻李野は聞く。

「それってこの中にいたりする?」

麻李野の質問にサツキは首を横に振るとマリヤは「そっか」と返した。

「私も会いたい人、よ。でも私は会えたわね!マリーとはやとん!」

かなみは嬉しそうに話すと二人も嬉しそうに笑い隼人が口を開いた。

 

「あ、でも僕は願いを叶える…だったかな課金カード100万円分くれたりして」

「そういえばはやとんだけ違うんだよね!あ、他にも違う子っている?」

麻李野が問い掛けると奥に座っていた姫が立ち上がり近づいてくるとスマホ画面を全員に見えるように前に出しながら口を開いた。

「ウチは居場所を与える。その後宮って人とも違う」

スマホの画面には信頼のスマホに届いたメールの文章と同じような言葉が書かれており異なるのは

居場所を与えますという文章であった。

一人ひとり違うのかと信頼は考えるが少なくとも自分とサツキ、かなみは会いたい人に会えるとメールが来たの

であろうと考えをまとめるとマリヤが口を開いた。

 

「ワタシも会いたい人!キミも?」

麻李野は信頼の方を見ながら問い掛けると信頼は頷く。

「じゃあ、お兄さんは?」

マリヤは敦を見ると敦は笑いながら答える。

 

「オレにはそんなのきてないよ」

「え、そうなの?じゃあなんでここに来たの?」

麻李野の疑問を投げかけると敦はズボンのポケットからガラケーを取り出すと画面を見せる。

そこには信頼と同じく会いたい人に会えるというあのメールが開かれていた。

「これはオレの知り合いに届いたメールを転送してもらったものなんだけど…うんあっさり入れたね

コピーできる鍵を招待状にするのはちょっと警戒心が無さ過ぎるかな」

全員の頭にクエスチョンマークが浮かんでいるような一同の表情を無視して敦は続けた。

「ここに入る条件はこのメールを持っている事。届いた本人じゃなくても入れるってお話なんだけど…

つまりオレはここにいる皆と違って完全に部外者でこの空間にとってオレは異物だからいつつまみ出され

るか…いやそれくらいならまだいいけど多分最悪殺されちゃうかもね」

 

楽しそうに恐ろしい言葉を口にする敦。

殺される。

何故そんな言葉が建て来るのかと不安そうになる一同に敦は容赦なく続けた。

「みんな怖がらないで落ち着いて聞いてほしいんだけど…多分みんなここに閉じ込められちゃうと思う

多分人数がそろい次第…もしかしたらこれで全員かもしれないし」

隼人が「あの」と口を挟むと隼人は続けた。

「僕とマリーがこのお屋敷に入った時…カチャって音がしたんですけど…もしかしてそれって鍵がかかる音

だったりするかもしれません」

「ええ!」

一同が驚きうろたえ始める。その時。

 

姫が駆け出し庭の扉を乱暴に開くと屋敷の中に入っていくと全員顔を見合わせながら姫についていく。

姫は玄関の扉を押したり開いたり、蹴ってみたりをするが扉は少しも動くことはない。

「マジで閉じ込められてる!」

姫は興奮しながら怒鳴ると続けて扉を蹴り続ける。

かなみがそれを止めようと姫に近づく。

「姫ちゃん、落ち着いて?」

「うっせぇ!ばばぁ死ね!」

「え」

悲しそうな表情になるかなみ。

さすがに死ねは言い過ぎだろうと信頼が思っていると隼人が口を出した。

「ちょ、死ねは駄目でしょ!謝りなよきみ!」

「ふざけんな!クソ!てめぇも死ね!」

「ねえ」

姫に向かって麻李野が口を挟んだ。

「駄目だよ。簡単に死ねって言ったら」

 

姫は再び死ねという言葉を出そうと麻李野を睨みつけるがその顔を見て一瞬身体を震わせた。

先ほどののんびりとした俺島について話していた時の麻李野とは全く別の心の底から悲しみ怒っている

そんな表情をしていた。

麻李野は続ける。

 

「人って簡単に死んじゃうんだ。それと同じくらい誰だって人を簡単に殺せるよ

ある日突然美人で優しい…いい子が人を殺しちゃう事だってあるんだから…人は簡単に殺されちゃうんだから

…死んじゃうんだから…簡単に死ねって言わない方がいいよ。後悔するよ絶対…どっちになったとしても」

悲しそうに姫を見つめる麻李野。

 

麻李野の言っている事はよくある正論の筈なのに何故か重石の様で妙な説得力があった。

姫は小さく舌打ちをすると麻李野の言葉が通じたのか「悪かったよ」と吐き捨てるように言うと扉から少し離れた。

麻李野は苦笑いをしながらかなみたちを見るとかなみと隼人はもういいよと言うような表情で小さく笑った。

「もう落ち着いたかい?」

敦が指で頬を軽く掻くとかなみが「はい」と答えた。

その返事を聞いて敦は安心した表情で続けた。

「怖がらせてごめんね。多分これ以上人数は増えないんじゃないかな?」

全員が再び敦に注目すると敦は続けた。

 

「鍵が閉まっているってことはもう外から人は入れないだろうし…同時にオレ達も出られなくなったわけ

だけど…多分窓も開かないと思うよ」

敦の言葉と同時に姫が近くにあった窓を開けようとするが窓が揺れる音だけが響き鍵もかかっていない

窓が開くことはなく姫はため息を漏らした。敦は続ける。

「ここは多分異空間って言うオレ達がいた場所とは別の場所なんだ

だから警察も来れないと思うし携帯電話も使えないと思う」

全員が自身のスマホを見る。

先ほどまであった電波アンテナのアイコンが非表示にされており一同は再び不安そうな表情になる中

隼人が口を開く。

 

「やっべー…まだ今日ログインしてないよ」

「ワタシは済ませてきたよ!はやとん以外にドジっ子?」

麻李野が笑うとかなみもつられて笑う。

「大丈夫よはやとん、帰ったらすればいいんだから」

それもそうかと隼人は落ち着くと敦が話を戻す。

「とりあえずこの洋館の中を探索してみないかい?もしかしたら玄関の鍵がどこかにあるかもしれない

鍵の形なのかはわからないけどね」

「鍵の、形…じゃ、ないっ、て、どういう、こと、ですか?」

サツキが口を挟むと敦は答えた。

 

「ほら、もしかしたらオレ達の行動次第でここの家主が開けてくれるかもー…とか?」

適当な言葉に再びクエスチョンマークが頭に浮かぶ一同。

敦のいう事を聞いて大丈夫なのかと不安に思うものも出てきそうだが不思議と誰も何も文句は言わない

ままかなみがその話の流れに乗った。

「ならえーっと、一人ずつバラバラになるかグループで行くか…全員で一緒に行く?

二手くらいに別れた方が効率よさそうだけど…ねえ?」

かなみは麻李野と隼人を見ると二人はそれに同意する返事をした。

「なら二手に別れよっかって…もう片方はチームできてそうだけど」

敦はかなみ達俺島組を見ると三人は笑い合う。

 

「じゃあオレと一緒に行く人…いる?」

敦は不安そうに聞くとサツキがそれに返事をした。

「わ、たし…敦、さんとが、いい、な」

「サツキちゃん!ありがとう!オレ一人ぼっちになるかと思ったよ!他にはいるかい?」

嬉しそうに敦は聞くと次は姫が敦の方に近づいていく。

「人数的に」

姫は短くそう言うとスマホの画面を見始める。

そしていつの間にか信頼のみまだどちらにも入っていない状況が出来上がる。

信頼はどうするか考えているとサツキが近づき信頼の手をとると優しく握った。

「信頼、くん、は、わたし、と、いこ?」

サツキの指の温もりが信頼の指に伝わる。

何か運動をしているのか指は思ったより柔らかくなく少ししっかりとした、しかし安心感のある

優しい指の温もりに信頼は少し緊張してサツキの言葉が上手く耳に入らないままとりあえずと

頷くとサツキは嬉しそうに笑った。

 

「それじゃあ私、かなみチームと敦さんチームで行きましょう。集合時間はどうします?」

かなみはスマホの画面を見ると時刻は十時十五分と表示されている。

「とりあえず三十分後でいいんじゃないかな」

敦が言う。

「わかりました。じゃあ十時四十五分にここに集合という事で」

かなみと敦が簡単に色々なことを決めていくとかなみは隼人と麻李野と共に一階の廊下に続く別の廊下

へ歩き始めた。

「というわけでオレ達は二階ね」

敦が階段を指出すと姫とサツキは歩き始める。

あっという間の流れに信頼は置いていかれそうになりそうだと思いながらも遅れないように

三人の後ろを歩き始めた。