敦たちと離れ一階を探索することになった
かなみ、隼人、麻李野の三人は俺島の事を話しながら廊下を歩いていた。
今開催されているイベントの攻略情報。
月にいくらほど課金をしているのか。
一日のプレイ時間はどのくらいか。
三人はただ長く続く廊下を歩きながら飽きるまで話し続けた。
そして全員が感じたこの長すぎる廊下。
会話をしている最中にすぐどこかの部屋にたどり着くと思っていたがその部屋は一向に現れず
ただ赤い絨毯と開かない窓が永遠と続いているだけだった。
歩き始めた頃に窓が開かないか全部調べようと一つ一つ調べていたが開く事が無くいつの間にか
窓を調べる事を止めていた。
ただ話しながら歩くこの廊下が長すぎると誰もが思っていたがあえて何も言わないでただお喋りを
続けていた。
三人は無意識にそんなことを言ったら互いが怖がってしまうだろうと思い気を使って言わない様に
心がけていた。
玄関に鍵をかけられたり窓が開かなかったりするこんな場所で変なことを言って三人の空気を壊したいと
思うものは誰もいなかったがそろそろそれも限界かもしれない。
そんなことを思い始めた頃ようやく廊下の曲がり角が見えてきて三人は同時に「あ!」と声を漏らした。
「ハモったー!」
麻李野は楽しそうに笑うと二人もつられて笑う。
「よかったぁ…実はね私この廊下長すぎって思ってたの」
「あ、僕もそれ思ってました」
「ワタシもー!」
三人は同時に笑う。
こんなに気が合うゲーム仲間に出会えて本当によかった。
恐らく全員がそう思っている事であろう。
こんなところにもし一人だったらと考えるとゲームの話で気を紛らわせて話も合う三人が一緒で本当に
よかったとかなみは安心していた。
「なにかお部屋あるかな?」
麻李野が口を開くと隼人が答える。
「あるんじゃあいかな…?多分」
「あったら家具とかもあるよねー!現実の家具が俺島に転送されればいいのに!」
「マリーったらふふふ、それいいわね課金しなくて済むし」
「ここだと綺麗属性の家具が多そうですよね」
「あ!わかるー!ワタシ萌え属性集めてるからそれもあればいいなあ!」
三人は再び楽しくゲームの話をしながら廊下の画度までやってくるとその先には五つの扉があるのを
確認した。
三人は喋るのを止めると一番近い扉の前で立ち止まりかなみが口を開く。
「ここから入ってみようか」
二人はそれに同意の返事をするとかなみはドアノブに手をかけ扉を開く。
中には大き目の豪華なソファとテーブル。
腰ほどの引き出しが壁に二つ程置いてありその反対側の壁にはベッド。
そして扉の真正面には窓があったが真っ暗で何も見えない。
暗い為かなみたちが反射して映っているほどとても暗い黒が窓の奥へと広がっていた。
「あれ?外暗くない?」
麻李野が口日開きながら中に入ると部屋の中を見渡した。
かなみと隼人も中に入ると各々部屋の中の家具を眺める。
「もしかしたら外の日が入らない様にしてある…とか?わからないけど」
かなみは悩みながら麻李野の疑問に返事をしながら引き出し一番右端の引き出しを引いてみる。
中には何も入っておらずかなみは小さく息を漏らした。
「かなぴょんなにしてるの?」
麻李野が引き出しを覗きに来る。
「ほら、窓際さんが鍵があるかもって言っていたでしょ?」
「あの日人マドギワって人なんだ」
かなみは「あ」と声を漏らす。
「そう言えば二人はみんなと自己紹介してないわよね」
「そういえばそうですね」
思い出したかのように隼人が返事をするとかなみは先ほどいたメンバーの名前を誰かわかりやすいように
かなみなりに感じた特徴も伝えながら二人に伝えた。
「かなぴょんありがとう!サツキんにヒメちゃんにシンタくん!うんあとはマドギワさん!」
「マリー僕みたいなあだ名を勝手に決めてる…」
「いいでしょ?かわいいでしょ!」
麻李野は嬉しそうに笑うとかなみも笑う。
「ちゃんとそれでいいか確認はするのよ」
「はーい」
まるで姉弟が出来たようだとかなみは喜びながらも他の引き出しを開け続ける。
他にはアクセサリーや小物などが入っており鍵のようなものは見当たらなかった。
隼人はソファの下やテーブルの下を覗いている。
麻李野はタンスの扉を開くと一枚の紙が落ちてくる。麻李野はそれを拾う。
「なにこれ?」
麻李野のつぶやきに二人が注目すると麻李野は紙に書いておる文字を読み始める。
「しえちゃんにころされる?」
殺されるという文章に三人は気味の悪さを感じながらかなみが口を開く。
「なにかしら…それ」
「わかんない…それにしえちゃんって…?」
このメモを書いた人は命を狙われていたのだろうかと全員が考えながらも再び鍵探しをしよう
という事になり紙は麻李野の服のポケットに閉まった。
しかし鍵は見つかる気配はなく他の部屋も探そうという事になり全員が廊下へと出ると次の部屋の
前に立ちかなみがドアノブを回し扉を開いた。
その時。
先ほどの部屋とは何か雰囲気が違うことが三人はすぐに気がついた。
オレンジ色の光りに染まる部屋。
部屋の作りは先ほどと同じだが家具も先ほどの部屋は豪華なお金持ちが使っていそうな家具だったが
この部屋の家具はまるで魔女でも住んでいるような黒い家具がこの部屋の不気味さを引き立たせている。
窓の外からはこの不気味な部屋の原因であるオレンジ色の光りを発している大きな月のようなもの
そして何かの墓のようなものが乾燥した大地に並んでいた。
「やだ、なにここ」
かなみは不安そうな声を漏らすと後ろにいた麻李野がかなみの背中に手を当てると軽く叩いた。
「かなぴょん大丈夫?お外いる?」
「だ、大丈夫!ありがとうマリー」
「無理はしないでくださいね」
隼人もかなみの肩を軽く叩くとかなみは申し訳なさそうに「ありがとう、でも大丈夫!」と答えた。
三人はこの部屋の探索を始める。
先ほどと同じように引き出しやタンスの中テーブルの下などを探すがこれといって気になるものはない。
窓も開かないか試したが少しも開くことはなく三人は早くこの部屋を出ようと素早くこの部屋を後にした。
三つ目の部屋にも同じように入ると今度は窓の外には大きな黒い魚が泳いでおりこちらを気にするように
泳いでいた。
「大きなお魚ね…なんて種類かしら」
「僕も始めて見ますこんな真っ黒な魚…しかも大きい」
「すごーい!こんにちわー!」
魚はかなみたちを気にしてはいる様だが反応することはなく三人は再び探索を始める。
しかしここにも何か変わったものはなく再び部屋を出る。
次の部屋へ行こうと部屋の前に立ちかなみがいつも通りドアノブを回そうとした。その時。
少しも動く気配のないドアノブに三人は驚き目を見合わせた。
「どうしよう、開かないわ」
「鍵かかってるのかな?」
麻李野は首を横にかしげる。
「あと一つ部屋ありますしここは後回しにしましょうか」
隼人の提案に二人は同意すると先にある五つ目の部屋の前にやってくる。
かなみがドアノブを捻ると先ほどの部屋とは異なりすんなりと開く。
中は一番最初の部屋と同じような感じで探索も特に変わらず再び四つ目の部屋の前まで戻ってくると
隼人が口を開く。
「ここもう一度見ます?」
先ほどは開くことのなかった扉。
今度は開くかもしれないと少し期待をしながらかなみは「そうね」と返した。
「かなぴょん!ごー!」
麻李野は楽しそうに応援?をするとかなみは笑いながらドアノブに手をかけ軽く捻った。
金属が擦れる少し高い音と鍵が外れる心地いい音が廊下に響くと三人は顔を見合わせ小さくうなずく。
かなみはドアノブを引いて扉を開いた。
そこにあったのは大きなテレビと沢山の赤色に染まったテディベアとフランス人形。
部屋の壁紙もぬいぐるみの様に赤に染まり所々黒ずみ始めている。
そんな部屋の真ん中に薄い桃色のフリルがついたドレスを着た少女がこちらを見て
「見ぃ…たぁ…なぁ…?」
扉を閉める。
三人は運動もしていない筈なのに心臓の鼓動が早くなり息が切れる。
今のはなんだった?
そう聞きたいがここにいる三人全員がそんなことは知らないだろう。
誰も聞こうとはしない中、麻李野が口を開いた。
「もっかい、見てみる?」
「冗談でしょ…?」
隼人が驚きながら言うと麻李野は続けた。
「今…人いたし…もしかしたらワタシ達と同じ様に来た人…だったりしない、よね…ごめん」
「でも気になるわよね」
かなみも開けることに賛成寄りの返事を返すと隼人が口を開く。
「なら次は僕が開けます。女性に何かあったら大変だから」
優しく微笑みながらかなみの肩を軽く叩く。
かなみは「ありがとう」と言いながら紳士的な一面もあるんだなと少し嬉しさを感じていた。
それと同時に年上なのに頼ってしまって申し訳ないとも思っていた。
本来なら大人の自分が再び扉を開ける役目をするべきなのにと隼人に申し訳なさと感謝の気持ちを
感じていた。
隼人はかなみと場所を変わりドアノブに手をかける。
ドアノブの冷たい感触が妙に不気味で夏なのにもかかわらず背筋が冷たくなるのを感じる。
それを無視するように隼人は扉をゆっくり静かに開いた。
部屋の中は先ほどとは全く違い一番最初の部屋と殆ど同じ様な部屋が現れ三人は大きく息を吐いた。
「よかったぁ…!」
隼人の言葉にかなみと麻李野は頷く。
「三度目の正直だったんだよ…多分!」
「そ、そうね」
麻李野の言葉に同意しながら三人は部屋の中に慎重に入るが何か起きることも無く再び大きく
息を漏らした。
「それじゃあここもサクッと見て回っちゃいましょう」
かなみの言葉に麻李野が元気よく返事をする。
三人は部屋の中を見渡す。
他の部屋と違う点は窓の前に大きな壺がありその中には水が入っている。
そして周りにはダンボールや布がかけられた傘立てが沢山置かれていた。
麻李野は傘立てに掛かっている布を取ってみる。
そこには傘が沢山あるだけで特に変わったところはない。
部屋の中に傘があるという状況は変わっているが今はそれは必要のない指摘だろうと麻李野は何も
言わない。
かなみはタンスや引き出しを見ていると三段目の引き出しの中に小さな紙切れを見つけるとそれを手に
取り書かれている内容を読み上げた。
「ころしてやる…?なんだか物騒ね」
「さっきの紙と同じ人が書いたのかな?」
麻李野は疑問を口にするがそれの回答は誰にも分らず「さあ…」とかなみは返し紙をポケットにしまう。
隼人は壺の周りをぼんやりと眺めていると壺の横に小さなダンボールに赤い布が蓋われているものを
見つけると何気なくその布を取った。その時。
「う、わぁあああああぁぁぁああああああああああ!!!!!!!」
隼人の悲鳴が部屋中に、もしかしたら二階にも聞こえるのではないかと言う位の大きさで響く。
「はやとんどうしたの!」
麻李野が隼人に駆け寄りダンボールの中身を見ると静止しかなみの方を見る。
その目は先ほどまでの元気な麻李野ではなくとても真剣な表情をした麻李野だった。
「かなぴょん、絶対にこっちに来たら駄目」
「え、どうして…?」
突然の言葉にかなみは驚きながら問い掛けると麻李野は再びダンボールに視線を落としながら
崩れ落ちた隼人の背中をさする。
「人の手があるの」
「人の…?マネキンとか?」
かなみの質問に麻李野は首を横に振った。
「本物。血も出てる。いっぱい」
「そ、そんな…マリーそんな、見て大丈夫…なの?」
かなみは心配そうに麻李野と隼人を見つめる。
かなみの角度からでは人の手は見えずかなみは本当にそんなものあるのかと気になってしまうが
顔色が真っ青になった隼人の表情と身体の震えから本当なのだろうとかなみは思うとそれを一緒に見て
いる麻李野は大丈夫なのかと心配になり声をかけるが麻李野は笑いながら返した。
「ワタシのおじいちゃんお医者さんだったから大丈夫!」
「そうなの…?」
「うん!それよりはやとん、大丈夫?お外出て休もっか!」
麻李野は隼人の腕を肩に回しゆっくりを立ち上がらせると隼人は青い顔のまま口を動かす。
「二人とも、ごめんなさい…僕」
「大丈夫!かなぴょん!早く出よう」
ええ、と返事を返しながら麻李野と隼人を先に部屋から出てもらいかなみは最後に部屋から出る。
出る直前どうしても気になりダンボールの方を見たがそこには人の手どころかダンボールすら
存在しておらずかなみの頭にはクエスチョンマークが思い浮かぶ。
何故二人には人の手が見えたんだろうと疑問に感じつつ部屋から出て行った。