庭に入り隼人はベンチに横になり麻李野は心配そうにしながら側に座っている。
敦は先ほど信頼たちにした話をかなみ話すとかなみは驚いた表情をしている。
姫は最初に座っていた場所でスマホをいじる。
再び電波が入らないかを試みている様だが成功はいまだにない。
さつきは庭に咲く花をぼんやりと眺めており信頼はスマホを片手に出入り口の前でぼんやりと座っていた。
信頼は暇な今の時間に今まで見た部屋の事をメモ帳アプリに書き出していた。
最初に入った客間は特に何もなかった。や
書斎にはたくさん本があった。など
短いが印象に残った事や気になった場所をメモ用アプリに書き出していると麻李野が信頼の方へ歩いてき
て信頼の隣に座ると口を開く。
「ねえ、そっちにトイレってあった?はやとん、トイレ行きたいっていうんだけど、こっちみてなくて」
信頼はメモ帳アプリに文字を打ちこみ麻李野に見せると麻李野はそれを読み上げる。
「[ありましたよ、階段を上って右側の通路を進むと一番奥にあります]ありがとう!あ!そうだ
ねえ、ちゃんと言ってなかったよね!ワタシ麻李野!マリーって呼んでね!」
嬉しそう麻李野はお礼を言うと立ち上がり番地で休む隼人の方へ早足で歩き出した。
「はやとん!おトイレあるって。立てる?」
隼人はゆっくりと起き上がると「ありがとう」と小さくお礼を言い再び麻李野の肩を借りるとさつきが
二人の元に歩いていくと口を開いた。
「わたし、案内、する、ね、あの、階段、大変、だと、思う、から」
「ありがとう!さつきん!」
麻李野はお礼を言うとさつきは目を丸くして「さつきん…?ふふふ」と笑い隼人の身体を支えながら
出入り口の方へ歩き出す。
信頼は立ちあがり扉を開けると閉まらない様にと押さえる。
三人が通るとき麻李野はウインクをしながら
「シンシン気が利くのイケメン!ありがとう!」
と言うとさつきが「しんしん…!」と反応し少しだけ口を尖らせ頬を赤く染め歩いていった。
信頼は初めてあだ名で呼ばれた事とシンシンというネーミングに謎の違和感を持ち首を傾けながらも
扉を閉めた。
「隼人くん大丈夫そうかい?」
かなみと話をしていた敦が信頼に問い掛けると信頼は文字をスマホに打ち込み敦に見せた。
[かなり具合悪そうでした]
「そっか早くよくなるといいけどね」
敦がそう言うとかなみが「あの」と声をかけた。
「実はその事でお話が…」
「なにかあったのかい?」
かなみは小さく息を吸うとゆっくり吐き出し話し始める。
「実は…その、さっきマリーが人の手を見たって言ったと思うんだけど…私見てないんです
二人があるって言った場所を見たんですけど手なんてどこにもなくて…でもはやとんはあんなに具合悪
そうにしてるから二人が嘘ついてるなんて思えなくて…」
「ああ、それか」
敦はそうつぶやくと口を動かす。
「これではっきりした。この空間は確実に悪意を持ってる」
「悪意って…私達がなにか悪いことをしたって事?」
かなみは悲しそうな表情をすると敦は続けた。
「いや多分一方的な悪意な気がするなあ…なんとなくだけど」
何故そう思うのだろうと疑問に思い信頼は文字を打つと敦に見せた。
[どうして一方的なんでしょう?]
信頼の疑問に敦は「うーん」と声尾を漏らしながら腕を組み言葉を探しながら続けた。
「勘って言うと信憑性が薄れちゃうけど…今まで行ったことのある異空間で悪意のあるものがいくつか
あったんだけどね。みんな共通して招待状と望みを叶えると言った甘い言葉を出してるんだ
だからもしかしたら、と思ってね。それとここにいる子たち皆年齢もバラバラだし…若い子ばかりでは
あるけれど君達に共通点を感じないんだよね」
「だから一方的なって事…?」
かなみは不安そうに聞くと敦は頷く。
「で、でも私とマリーとはやとんは共通点があるんです!最初に話した俺島のプレイヤーで…」
かなみはだんだん声が小さくなり俯くと小さくつぶやく。
「でもそれって…私達三人だけで皆さんは違うの…よね?」
敦は頷くと続けた。
「きっとそこは偶然なのかそれとも理由があるのか…わからないけど…とりあえずオレ的には皆の共通点
が見えないんだ。だったらこの異空間の創造主が一方的に君達に何か強い想いがあるのかもってね」
「なるほど…じゃあ私達がここの創造主さんに無意識の間に何かしてしまった可能性もあるのね
なにかしら…私、悪いことをしてしまったなら直接謝りたいわ。悲しい想いをさせてしまったのなら尚更
…謝れないなんて申し訳ないわ。自己満足かもしれないけど」
「かなみちゃんいい子だね!オレだったら早く出せーって感じになるけど」
敦はそう言うとかなみは首を横に振る。
「私、実は前…困っている子を追い詰めてしまった事があって…だから私が間違ってたら謝ってその子の
本当の意味で力になれたらって…でもこんなの私の勝手な贖罪です。どんなに謝っても相手が本当に救わ
れるかなんてわからないし…謝るのなんて私が楽になりたいからなんです…私はずるい人間だわ
だから余計に申し訳なくて」
拳を握り小さくかなみは震える。
その様子を見ながら信頼は思ったことを文字に書くとかなみに見せた。
[自己満足でも謝るだけで凄いと思います。大切なことだと思います。
でもいくら謝っても自己満足に感じてしまう気持ちはなんとなくわかります。]
「本能寺さんも、そんな気持ちになったことあるの…?」
かなみは聞くと信頼は書斎で見たいじめの本の事を思い出しながら頷く。
信頼も大切な人を傷つけてしまった事がある。
だから完全にとは言わないがかなみの気持ちが分かるような気がした。
かなみは「クスッ」と笑う。
「よかったらいつか直接お話しできたらいいわね。本能寺さん、いい人そうだもの」
信頼は文字を打ちかなみに見せる。
[俺も声出せるようになってお話したいです]
「ふふふ、きっと出せるようになるわ。頑張ってね本能寺さん」
そう言いかなみは笑うと信頼は嬉しさからか頬が熱くなるのを感じ小さくお辞儀をした。
その時廊下へ続く扉が開き振り返るとさつきと麻李野、二人の肩を借りながら青い顔色をした隼人が
立っていた。かなみは駆け寄る。
「大丈夫?」
かなみが聞くと麻李野は首を横に振った。
「教えてもらったおトイレお水出ないみたいで…とりあえず戻ってきたの」
「ええ!困ったわね」
かなみは困惑するとさつきが口を開いた。
「あの、一階に、別の、扉が、あった、んです、ね?信頼くん」
さつきは信頼に話しを振ると信頼は頷きさつきは続けた。
「わたし、そこ、見て、きます、こ、んなに、広い、お家、なら、もう、ひとつ、くら、い、おトイレ
ある、と、思う、の」
そう言いきるとかなみは頷いた。
「じゃあお願いできる?一緒に行く?」
さつきは首を横に振る。
「急ぎ、ですか、ら、走って、いきま、す」
そう言うとさつきは一人例の扉に向かって走って行く。
その間に麻李野は扉の近くに隼人を座らせると隼人はうずくまりながら小さく麻李野にお礼を言った。
「はやとん、ごめんね。お水いる?」
麻李野が聞くと隼人は小さくうなずき麻李野は持ってきていた大きなトランクケース二台の片方を開ける
と中からクーラーボックスを取り出し蓋を空ける。
中には沢山のペットボトルの飲み物が沢山の保冷剤と共に入っておりその中にある水を取り出すと
トランクケースの中に入っていた紙コップの袋を開封しそれに水を注ぎ隼人に手渡した。
隼人はそれを受け取るとゆっくり飲んだ。
「あ、ありがとう」
擦れた声でお礼を言うと麻李野は「大丈夫だよ」と返すとさつきは走りながら戻ってくる。
「あの、おトイレ、でし、た…お水、も、流れ、ます」
「本当?さつきん!」
麻李野が問い掛けるとさつきは頷き続けた。
「お店、みたいな、おトイレ、だった、よ、隼人くん、立て、る?」
隼人は小さくうなずくと麻李野が隼人に肩を貸すとかなみが隼人の隣に立った。
「今度は私も一緒に行くわ。さつきちゃん走らせちゃったし…ゆっくり休んで?」
かなみが言うとさつきは「わかり、ました」と微笑む。
麻李野とかなみは隼人を支えながらトイレへとゆっくり歩き出した。
その様子を遠くで座っていた姫は横目で見ながら
「いつもなら薬持ってんのにな…」
とつぶやきスマホしか持っていない事を後悔した。