ゆっくりと歩きながら無事トイレへとたどり着くと隼人は中に入りかなみと麻李野はトイレの前で
座り隼人の帰りを待った。
かなみが口を開く。
「あのね、マリー」
麻李野はかなみに視線を合わせると優しく笑った。
「どうしたの?かなぴょん」
「実はね…」と少し言いづらそうに言葉を詰まらせながらもかなみは続けた。
「二人は、手を見たって言ったじゃない?」
「うん」と麻李野は返す。
「実は私だけ…見えなかったの…!」
「ええ!」と麻李野は驚くとかなみは続けた。
「でもはやとんはあんな状態でしょ?なんで私だけ見えないのかって窓際さんに相談したんだけど…
もしかしたらこの空間は悪意の空間かもって…よくわからないけど悪意で見えたり見えなかったりする
みたいなの」
「悪意って…?」麻李野は聞く。
「わからないの…もしかしたら私達が無意識の間にこの空間を作った人に酷いことをしてしまって悪意を
持ってしまったかも…みたいな感じかもなの」
「そっか、じゃあ謝らないとね…いやその前になにしちゃったか思い出すのが先?」
麻李野は「うーん」と考えながら上を見上げ言った。
「今思い出すから待っててねー!」
かなみは笑う。
「ちょっとマリー誰にむかって言ってるの?」
「ここの家主さん?」
「もう!」とかなみは笑うと麻李野は嬉しそうにほほ笑んだ。
「よかった、かなぴょんに笑顔が戻った」
「え?」とかなみが驚いた表情をすると麻李野は続けた。
「だって無理してる感じしてたから…人間笑顔が大事!」
そう言い麻李野は明るく笑うとかなみは小さく俯いた。
「マリー凄いなあ…実は私怖くて…もしマリー達が言ってた手が見えてたらと思うと…怖くて」
かなみは声のトーンが暗くなっていくと麻李野が口を挟んだ。
「普通みんなそうだよ。むしろワタシの方が変わってるんだから気にしない気にしない!」
麻李野はかなみの背を優しく撫でるとかなみは笑う。
「ありがとう、マリー。そう言ってもらえると救われるなぁ」
「ふふふ」とかなみは笑うと麻李野のおじいさんがお医者さんと言うお話を思い出し口を開いた。
「そういえばマリーのおじいさん、お医者さんだっけ?お医者さんの孫も見慣れちゃうものなの?」
かなみの疑問に麻李野は「あ」と声を漏らし腕を組んだ。
「やっぱり無理がある?」
「え?」とかなみは聞き返すと麻李野は続けた。
「おじいちゃんがお医者さんは嘘じゃないんだよ!超名医だったんだって…でもね
お医者さんの孫としてああいうのを見慣れているっていうのは嘘」
麻李野の突然の告白にかなみは言葉を失い固まっていると麻李野は一度目を瞑り小さく息を吸うと
目を開きかなみに視線を向けた。
「話してもいい?」
「え、ええ…」
麻李野の真剣な目にかなみは頷きながら返事をすると麻李野は「ありがとう」と言うと続けた。
「実はね…ワタシ死体を見たことがあるの」
「え…」
かなみは何も言葉が出てこずただ茫然としているが麻李野は続ける。
「身体がバラバラになって殺された死体
首が絞められて死んだ死体
頭を沢山殴られて殺された死体
花壇に腕だけ出されたまま放置された死体
お風呂の湯船に閉じ込められて茹蛸になった死体
……心臓を刺されて死んじゃった子
…………これを一日で全部見たことがあるの」
淡々としゃべる麻李野の目を見つめながら悲しそうな表情を浮かべるかなみ。
麻李野はすぐに笑顔に戻る。
「だから手ぐらいじゃ驚かなかったの!…あの手、バラバラの死体に似てたから…驚くよりも、あ、あの時
っぽいなあって思いながらはやとん心配してた」
笑いながら話す麻李野をかなみは悲しそうな表情のまま見つめていると麻李野は小さく俯いた。
「やっぱり引く?」
麻李野は頬を軽く掻くとかなみは首を横に振った。
「ううん、引いてないよ…ただ…どうしてそんなことに…?」
かなみは疑問を麻李野に聞くと麻李野は「気になるかぁ…」と小さくつぶやくと壁に頭をつけると小さく
息を吸い吐くと再びかなみに視線を戻した。
「あのね…それワタシの親友がやったことなの」
「え…」とかなみは声を漏らすと麻李野は続けた。
「聞いてくれる?ワタシの大切な親友の事」
麻李野はそう言い首をかしげるとかなみは小さく頷いた。
「マリーの親友の事、知りたいな…なんで殺しちゃったとかだけじゃなくて…どんな子だったのかとかも」
かなみは笑いながら言うと麻李野は嬉しそうに「ありがとう!」と返し口を開いた。
「ワタシの親友はねとっても超かわいくて!超美人で!でもクールで…皆の人気者だったの
それは本人気づいてなかったけど…ちょっと鈍感なとこもあるけどワタシのピンチにはいつも駆けつけて
くれて、何でも相談に乗ってくれて、アドバイスもくれて…最高のワタシだけの親友!
ワタシがいじめられてる時とか仕返ししてくれたり恋の相談も乗ってくれたり…!本当に信頼出来て
なにか隠そうとしてもあの子の前になるとポロッと話しちゃう。それくらい信頼してたんだ」
麻李野は手を合わせながら懐かしそうな表情をしながら話すとかなみは言った。
「素敵な子だったのね」
「うん!」と麻李野は返すと少し暗い顔になりながらも話を続ける。
「でもその子ずっと凄い重たい悩みを抱えてたみたいなの…なのにワタシはそれに全然気がつかなくて…
助けてもらってばっかりで…ワタシが中学生の時のその親友の誕生日の前の日にね、その子…家族を
皆殺したの…さっき言った死体はその子の家族」
麻李野は悲しそうに続けた。
「ワタシね、その日の夜に会ってくれる?って言われてたのに…行ったらもうそうなってて…ワタシが
もっとしっかりしてたら…きっとその子は罪を犯さずに済んだかもしれないのに…ワタシが頼りなかった
から…あの子は夜の零時過ぎ…自分の誕生日に失踪しちゃったの…ワタシ追いかけられなくて…
親友失格だって、わかってるけど…だけど今度こそ助けてあげたい、それから謝りたいんだ」
麻李野はそう言うと少し潤んだ目を拭い笑った。
「だから会いたい人に会えるってメールが来てもしかしたらって思っちゃったの」
「そう、なのね」
短い沈黙。それを破ったのは麻李野だった。
「でもずっと会いたかったかなぴょんとはやとんには会えたから半分は成功だよね!
親友にも合わせてくれないかな~?サービスおねが~い!」
かなみは「あはは!」と大きく笑った。
「もう、マリーたら…ふふふ、つまり私とマリーのお願いは殆ど同じね」
「え?」と麻李野は目を丸くするとかなみは微笑みながら言った。
「私最初はマリーとはやとんに会いたい!だけだったけど…私も会ってみたくなっちゃった
マリーの親友さん!」
「かなぴょぉ~ん」
麻李野はかなみにひっつくとかなみも「ふふふ」と笑う。
麻李野の想い過去に驚きながらもその麻李野を支え麻李野の親友とも出会えたらいいなとかなみは思った。
実際かなみの願いは叶ったのだからきっと麻李野の親友にも会える!そうかなみは思った。
一階のトイレの個室の中。
隼人は便器に顔を埋め胃から異物を吐きだしていた。
探索中に見た血まみれの人の死体の一部。
それを見つけてから吐き気と頭痛が止まらなかった。
麻李野を始めとする周りの人達が隼人を心配し気を使ってくれたことに申し訳なさと感謝を感じながらも
隼人は自らの死の中のものをすべて便器に吐き出した。
やっと吐き気が収まりふらつきながらゆっくりと立ち上がり便器の水を流す。
二階のトイレは水が流れなかったがここの水はしっかりと流れ隼人の出したものを全て洗い流した。
隼人はトイレの個室から出ると洗面台の前に寄り掛かり深く息を吐いた。
「なさけな…」
ぽつりとこぼれた言葉と共に汚れた口を水で洗い流す。
ご丁寧に石鹸まで用意されており隼人はそれを手に取ると手早く泡立て泡を流した。
全て終えると隼人は再び深く息を吐きその場にしゃがみ込む。
その時。
「たすけて」
嗄れた声が聞こえて隼人は顔を上げる。
今の声は誰だろうと思い辺りを見渡すが誰か人がいる気配ではない。
では外の麻李野とかなみだろうかと考えるが声は隼人の耳元で聞こえた気がしてそれはないと考え
再びその場で周囲を見渡した。
白と金で構成された洗面台とトイレの個室があるだけで人の影は見当たらず隼人は首をかけげ立ち上がる
と正面を見ると洗面台に備え付けられた鏡の中にいる自分の後ろにいる黒い肌を液状化させ白い骨が
見えた今にも飛び出しそうな目玉を力強く回す何かのその目玉と視線が合った。
隼人は声が出ずその場でなるだけ動かない様にゆっくり後ろを見るが誰もおらず再び鏡に視線を戻す。
先ほどの何かは鏡から消えており隼人は息を吐き壁に寄り掛かった。
「たすけて」
そう言われ溶けた黒い皮膚をまとった白い骨が隼人の両肩を掴みそのまま隼人の顔まで寄ると黒い息を
吐いた。
それと同時に隼人の喉奥から声が漏れだした。
「ひぃ、い…ああああああああぁぁぁぁあああぁぁああぁああぁあああああぁぁぁあああぁあぁああ‼」