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【キミノカゲ】1章 08

隼人たちがトイレに向かってから信頼たちは各々自由を庭の中で過ごしていた。

敦はベンチでメモ帳に何かを書いておりさつきは花壇の花をぼんやりと眺めている。

姫は相変わらず電波が入らないかとスマホと格闘しており信頼は出入り口近くで座って空を眺めていた。

灰色の曇り空。

今朝家を出た時は綺麗に晴れていたのにここでは陽の暑さも無く本当にこの場所は違う場所なのかもしれ

ないと本格的に考え始めていた。

もしここからずっと出れなくなっていたとしたら食べ物はどうするべきなのだろうかと考えたり

そもそも一方的な悪意の原因を考えて見たりなどするが考えがうまくまとまらず小さく息を吐く。

その時姫が立ち上がると小さく伸びをした。

 

「あー、無理!電波入らん」

「姫ちゃん、お疲れ、様」

さつきが姫に声をかける側に寄ると姫は「うん」と短く返し敦の前に駆け寄りベンチに座った。

「おじさん!さっきの異空間の話!今暇だししない?」

姫の提案にさつきも「あ、わたしも」と反応すると敦は明るく笑いメモ帳を閉じた。

「じゃあ少しだけお話しようか」

「やった!」と姫は嬉しそうに目を輝かせると敦は大きなリュックを弄り中からエメラルドグリーンの

色をした宝石が美しく輝く金色の腕輪を取り出した。

 

「これは砂漠の異空間に行った時によかったらってもらったんだ

勇気が出る腕輪らしくて…実はこれを見つけたのはオレでねピラミッドの様な建物を冒険していて

てっぺんに宝箱と一緒にあったんだよ。岩に追われたりとか溺れそうになったりとか色々あったんだけど

結構楽しかったよ。そこで仲良くなった頭がゾウのおじいさんによかったら持って帰っていいよってね」

「頭がゾウ?」と姫は反応すると敦は「そう、ゾウ」と返した。

「超ウケる!それって人なの?ゾウなの?」

姫は目を輝かせながら質問する。

その姿は最初に不機嫌そうにしていた姿とは別人の様だった。敦は答える。

 

「うーん…喋れたから人間かなあ?日本語も上手だったし」

「まさかの日本人!超会ってみたい」

「じゃあこの腕輪を持ってれば会えるかもね…なんて姫ちゃん欲しい?」

敦が聞くと姫は腕を組む。

「でもおじさんが貰ったアクセでしょ?貰ったらゾウのおじさん悲しまね?」

「大丈夫!お宝は沢山持って帰ってきてるからね」

そう言って笑うと姫は目を輝かせ「ちょっと、超興味ある」と少し欲しそうな目で腕輪を見た。

「じゃあ姫ちゃんにプレゼント。お守り代わりにどうぞ」

そう言い腕輪を姫に差し出すと姫はそれを受け取った。

 

「おじさん!ありがと!ウチこういう民族系アクセ超好きなんだよね!」

姫は嬉しそうに左腕にはめるとそれを上に掲げた。

美しいエメラルドグリーンが輝きその光と同じくらい姫の目も輝いていた。

「ありがとおじさん」

再びお礼を言う姫に敦は嬉しそうに「いえいえ」と笑った。

「よか、ったね、姫ちゃん」

さつきも嬉しそうに笑うと敦はリュックを再び弄り中に金色の砂が入ったガラスのペンダントを取り出す

とサツキに差し出す。

さつきは目を丸くすると「え?」と声を漏らす。

 

「そのお宝をさつきちゃんにもプレゼント!オレのこの子と似てていいでしょ」

そう言い敦は自身が身に着けている水の入ったガラスのペンダントを指さした。

ペンダントの中に住む黒い魚が敦の指を見つめている。

さつきはペンダントを受け取ると頬を染めながら笑う。

「ふふふ、ありがとう、ござい、ます…敦、さんと、お揃い、ふふふ」

さつきはそう言いながらペンダントをつけた。

「超民族感いいね眼鏡」

姫が言うとさつきは嬉しそうに「うん」と笑った。

その様子を遠くから信頼は眺めていた。

 

「信頼くーん」

敦が信頼を呼ぶと信頼は立ち上がり敦たちの元まで歩いてくると敦はリュックから再び何かを取り出すと

信頼に差し出した。

信頼はそれを受け取り見るとAという文字が彫ってあるシルバーリングだった。

 

「それも勇気が出る奴。よかったら持っていてほしいな」

敦はそう言うとリュックを背負う。

「さてそれにしても隼人くん達長いね。ちょっと様子でも見に行こうか?」

そう言うと姫も立ち上がり後ろについていくように歩く。

さつきも一緒に行くらしく信頼の方を見るとなら信頼は自分も行こうかなと思い小さくうなずくとさつき

の隣に並んで歩き出した。その時。

開きっぱなしだったホールへ続く扉が独りでに絞まる。

一同は顔を見合わせるが敦がその扉を開こうと手を伸ばした。

瞬間。

 

扉が開く。

扉の向こうに広がる景色はホールではなく黒。

全て何もないというほど暗い黒。

そしてその中に桃色のドレスを着た少女が敦たちを睨みつけている。

一同は何が起きたのがわからず少女を見たまま動けずにいると少女は手を上げ指さすと口を開いた。

 

「お前嫌い」

少女はそう言うとその指を敦に向けた。と同時に強い風が扉の方に向かって吹く。

まるで台風の時の強風のような風は一同をその場から動けなくさせた。

少女は再び口を開いた。

「消えろ、迷いネズミ」

瞬間。

黒い空間から黒い蛇の様なものが飛び出してくると一同に向かって勢いよく進んでくる。

「オレから離れて!」

敦がそう言うと同時に黒い蛇は敦の事を捉えると黒い空間へと引きずり込んだ。

「信頼くん!頼む!」

黒に完全に飲み込まれる直前に敦はポケットからメモ帳と信頼が見つけた影を信頼に向かって投げる。

信頼はそれを受け取ると

「―――――!」

敦の名を叫ぶがその声が出ることはなく敦は黒い闇の中へと飲み込まれていき

同時に扉が独りでに閉まった。

 

扉が閉まった後誰一人何も言えず長い沈黙が訪れる。

今一体何が起きたのだろうかとこの場にいる全員が考えるがハッキリと言うものはいなかった。

唯一言えるのは窓際 敦という男性が一人異常な状況に巻き込まれ姿を消したという事だけだった。

誰も何も言えずにいるとさつきが沈黙を破った。

 

「あ、あ、の、え、あ、これ、と、とび、ら、開け、た、ら、い、いる、よ、ね?」

震えた声でさつきは振り返る。

その顔は恐怖と驚き等様々な感情が混ざる表情であった。

さつきの言葉に同意するものはおらず姫も信頼も黙ったままさつきから目を逸らした。

さつきは再び話し始める。

 

「き、き、きっ、と、敦、さん、が、おどろ、か、せ、よう、と、して、るん、でしょ…ね…敦、さん?」

既にいない人物の名を呼ぶさつき。

それにこたえるものは誰もいなかったが姫が口を開く。

「とりあえず…あっちの人達にも言った方がいいんじゃね…?」

姫の言葉にさつきは「そ、う、だ、ね」と返すと信頼を見る。

信頼を見るさつきのその目には光が無くただ目があるだけであった。

信頼はそんなさつきが少し怖くなり扉を開けるのを装ってさつきから目を逸らした。

ゆっくりと扉を開くと底に広がるのは普通のホールでホールの中にはかなみと麻李野が座って何かを話し

ており扉が開いたことに気がついた麻李野が手を上げ声を出した。

 

「みんなー!きてぇー!」

一同は庭からホールへ入るとかなみと麻李野の前まで歩いてくる。

かなみの膝に誰かの頭があるのに気がつきさつきが「敦さん?」と声を上げ顔を覗き見た。

しかしそこにいたのは銀髪の男性ではなく長い黒髪の女性だった。